プレスリリース 武蔵浦和メディカルセンター 武蔵浦和整形外科内科クリニック
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骨折リスクに影響を与える可能性のある腸内細菌~新たな骨粗鬆症治療法の開発に期待~
本研究成果のポイント
閉経後の日本人女性38名における腸内細菌叢の組成、骨代謝、および
骨折リスクの関連を調査しました。
バクテロイデス属が骨折リスクに対して抑制的な役割を果たす可能性、
およびリケネラシー科は骨密度や骨代謝に悪影響を及ぼす可能性が
示唆されました。
【背景】
近年、日本の人口は急速に高齢化しており、全国の骨粗鬆症患者の推定数は1,300万人を超え、特に女性で増加しています。骨折の予防は医療だけでなく社会にとっても重要な問題となっています。
人の腸には約1000種類の細菌が生息しており、この腸内細菌集団は、腸内細菌叢と総称されます。
これまで、腸内細菌叢の変化と様々な疾患の関連が報告されていますが、骨粗鬆症や骨折リスクと
腸内細菌叢の関連に関する研究はまだ少ないのが現状です。今回の研究は、閉経後の日本人女性の腸内微生物叢と骨代謝を調査および分析することにより、特定の腸内細菌が骨粗鬆症や骨折のリスクに関連しているかどうかを判断することを目的としました。
【研究方法と成果】
武蔵浦和整形外科内科クリニックを受診された38名の閉経後の日本人女性を対象とし、骨密度、血液検査にて骨代謝(TRACP-5b(注1)等)をはじめ骨の生成に関わる栄養素(ビタミンK等)を測定し、骨折歴の有無を聴取しました。腸内細菌叢の分析は、株式会社サイキンソーに委託されました。検査値をそれぞれ高値と低値の2グループに分け、グループ間の腸内細菌の割合を比較検討しました。骨折リスクは、腸内細菌叢の2つのグループと骨折歴から決定され、相対リスクを計算しました。
【腸内細菌叢の組成(門レベル)】
Firmicutes(ファーミキューテス門)52.6%、Bacterodetes(バクテロイデス門)32.8%、Proteobacteria(プロテオバクテリア門)7.7%、Actinobacteria(アクチノバクテリア門)5.7%、その他1.2%でした(図1)。
【Bacteroides(バクテロイデス属)】
バクテロイデス属はバクテロイデス門に属します。血中のビタミンK2濃度の高いグループと低いグループで、バクテロイデス属の割合を比較したところ、高ビタミンK2グループで優位にバクテロイデス属の割合が多いことが分かりました(図2)。さらに、バクテロイデス属の割合の多いグループと少ないグループで骨折発生率を調べたところ、それぞれ52.9%、9.5%でした。バクテロイデス属が少ないグループは、多いグループに対して5.57倍骨折のリスクが高い事が分かりました(相対リスク)(図3)。
【Rikenellaceae(リケネラシー科)】
リケネラシー科はバクテロイデス門に属します。骨密度の高いグループと低いグループで、リケネラシー科の割合を比較したところ、低骨密度グループで優位にリケネラシー科の割合が多いことが分かりました(P = 0.004)。また、血中のTRACP-5b(注1)濃度の高いグループと低いグループで、リケネラシー科の割合を比較したところ、高TRACP-5bグループで優位にリケネラシー科の割合が多いことが分かりました(それぞれ、P=0.013)(図4)。
【考察】
本研究では、バクテロイデス属の割合の少ないグループで骨折リスクが5.6倍高い事が分かりました。
ビタミンKは骨形成を促進し、骨質を保つ作用があります。また、バクテロイデス属はビタミンKを合成することが分かっています。本研究でも血中のビタミンK2濃度の高いグループにおいて、バクテロイデス属が有意に多い事がわかりました。一方、骨密度とバクテロイデス属に優位な関係はありませんでした。このことから、バクテロイデス属は骨密度などの骨強度ではなく、骨質に働きかけて、骨折のリスクに影響を与えているのではないかと推測しました。
また、リケネラシー科は骨密度の低いグループと血中TRACP-5b濃度の高いグループでより豊富に存在しました。リケネラシー科は骨強度や骨吸収に影響する事で、骨折のリスクに悪影響を与えている可能性が示唆されました。
【今後の展開】
本研究の成果から、腸内細菌叢が骨の代謝、強度や骨折の発生リスクに影響を及ぼす可能性が示唆されました。腸内細菌の骨への役割に関するさらなる研究は、骨粗鬆症や骨折リスクの低減に役立つ腸内細菌叢の特定の種を利用した新しい治療法となる可能性があります。
発表雑誌
雑誌名:
Osteoporosis International
論文タイトル:Association Between Gut Microbiota, Bone Metabolism, and Fracture Risk in Japanese Postmenopausal Women (閉経後の日本人女性における腸内細菌叢、骨代謝、および骨折リスクの関連)
著者:Daiya Ozaki,¹Ryohei Kubota,¹ Takuya Maeno,² Mido Abdelhakim,³ Naoko Hitosugi³
DOI:10.1007/s00198-020-05728-y
原著論文URL :
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00198-020-05728-y
【用語解説】
(注1)※TRACP-5b(骨型酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ):破骨細胞にのみ存在する酵素で、骨吸収の亢進に伴って(骨が壊されると)血中に漏出される。骨吸収活性を反映する骨代謝マーカー。