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はじめに:痔のせいで便潜血陽性?それって本当に大丈夫⁉
健康診断で便潜血検査が「陽性」と出たとき、「自分は痔があるから血が混じって当然」と自己判断していませんか?自己判断で精密検査を先延ばしにすることは、将来の健康を脅かす最大の落とし穴です。「痔だから大丈夫」という思い込みは、医学的に非常に危険な考え方です。
なぜ、痔があったとしても大腸カメラ(大腸内視鏡検査)を必ず受けるべきなのかーー
その理由を大腸肛門病専門医・消化器内視鏡専門医の両方を持つ立場から詳しく解説します。
1. 自己判断が早期発見を阻む理由
正常性バイアスという誤った判断
精密検査(大腸内視鏡検査)をためらう方の多くが、「痔の出血に決まっている」と考えがちです。これは“正常性バイアス”が働いているためで、「大したことではない」「自分は大丈夫」と心理的に考えてしまう人間の自然な反応です。
これが良い方向に働くこともありますが、深刻な病気のサインを無視して受診が遅れることにつながりかねません。そのような心理状態に誰でもなり得ることを、まずはきちんと認識することが重要です。「鮮血」と「潜血」はまったく別物
「鮮血(お尻からの赤い血)」と、検査で検出された「潜血(目に見えないほど微量な血)」は、医学的に全く別物として扱う必要があります。
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鮮血: 排便時にお尻から出る、鮮やかな赤い血。主に痔核や裂肛(切れ痔)が原因であることが多いです。ただし、大腸がん、特に直腸がんでも鮮血として出血することがあるため注意が必要です。
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潜血: 便に混じった目に見えない微量な血液成分。便潜血検査(免疫法)は、ヒトのヘモグロビンにのみ鋭敏に反応するように設計されており、食事制限も不要な精度の高い検査です。
目にみえる血便のある方こそ大腸カメラが必要です
「痔の血が出たから陽性になった」と考えてしまうと、そのすぐ奥に隠れている「痛みのない大腸ポリープ」からの微量な出血を見逃すことになります。また、そもそも便潜血検査は症状がない方が健康診断として受ける検査です。鮮血が見られている方は、きちんとした診断を受けずに痔だと思い込まず、医療機関を受診し大腸内視鏡検査による精査を受けるべきです。
当院では、痔があって保存治療をうけている方には、3年ごとの大腸内視鏡検査を推奨しています。
2. 便潜血検査は「目に見えないサイン」を拾うための検査
便潜血検査の真の目的とは
便潜血検査の目的は、痔を診断することではなく、「自覚症状のない大腸ポリープや初期の大腸がん」をいち早く見つけ出すことです。大腸がんは、40代から罹患率・死亡率ともに上昇し始めます。初期段階では痛みが全くなく、目に見えるほどの出血も稀です。
受診された方から「大腸がんになるとどのような症状がでますか?」という質問をされることがありますが、初期の大腸がんでは症状はまずでることがありません。腹痛や血便、便が細くなるなどの症状が出る頃には、がんがある程度進行し、腸管内腔を狭くしている可能性があります。このようになる前に、早期に大腸検査を受ける必要があるのです。
3. 数値(定量値)が高いほど「がん」のリスクは上がる
最近の便潜血検査(定量法)では、血液の濃度を「ng/mL」という数値で示します。この数値は、腸内の異常の深刻度と強い相関があります。
数値から見る大腸がん発見率
国内の検診データによれば、がん発見率は以下の通り変化します:
- 100 ng/mL台: がん発見率 約1.0%前後
- 1000 ng/mL以上: がん発見率 約10%〜15%
基準値付近の人と比較して、数値が1000 ng/mLを超えた場合、大腸がんが見つかる確率は10倍以上に跳ね上がります。これほどの高数値は、痔だけでは説明がつかないケースも多く、腸内に出血源となる病変(がんや大きなポリープ)が存在する可能性を強く示唆します。
4. 「1回陽性」と「2回陽性」の重みの違い
現在の大腸がん検診では、2日連続で便を提出する「2回法(2日法FIT)」が標準です。
これは、がんやポリープからの出血が毎日一定ではないため、複数回検査することで感度を高める目的で行われています。
では実際に、「1回だけ陽性」と「2回とも陽性」でどれくらい差があるのでしょうか。
データが示す2回陽性のリスク
日本の内視鏡専門クリニックで行われた後ろ向き研究(Toyoshimaら, BMJ Open 2021)では、2日法便潜血陽性者の大腸カメラ結果を比較しています。その結果は以下の通りです。
【大腸がん発見率】
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2回とも陽性(FIT +/+):12.1%(32/264例)
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1回のみ陽性(FIT +/−):1.9%(19/1018例)
つまり、2回とも陽性の場合、1回のみ陽性と比較して約6倍以上の確率で大腸がんが発見されています。
「1回陽性」も油断はできない
「1回だけ陽性だから軽い出血だろう」と考えるのは危険です。1回のみ陽性でも 約2%に大腸がんが見つかっています。
100人中2人という数字は、決して低い確率ではありません。したがって、1回陽性であっても精密検査(大腸カメラ)は必須です。
当院では、2回陽性の結果が出た方には、最優先で予約枠を調整し、一刻も早い内視鏡検査(大腸カメラ)の受診を強くご案内しています。
5. 【重要】「便潜血の再検査」は医学的に意味がありません
陽性が出た際、「もう一度便検査をして、今度は陰性だったら検査に行かなくて済む」と考える方がいらっしゃいますが、これは医学的に極めて危険な判断です。
なぜ「再検査で陰性」でも安心できないのか?
大腸がんやポリープからの出血は、毎日一定に出るわけではありません。出たり止まったりする「間欠的」な出血が特徴です。
1回目が陽性で、2回目が陰性だったとしても、それは病気が消えたのではなく「たまたまその日は血が出ていなかっただけ」に過ぎません。
一度でも陽性反応が出たという事実は、腸のどこかに出血源がある可能性を示す重要なサインであり、精密検査を省略する理由にはなりません。
6. 下痢や腹痛を伴う場合はさらに注意
もし、便潜血陽性に加えて以下の症状がある場合は、さらに注意が必要です。
- 2〜4週間以上、下痢が続いている(慢性下痢)
- 急激な体重減少がある
- 夜間、下痢や腹痛で目が覚めてしまう
これらの症状は、大腸がんだけでなく、潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患(IBD)の可能性も示唆しています。このような症状を伴う場合は、できるだけ早めの受診をおすすめします。
7. なぜ大腸カメラ(大腸内視鏡検査)を省略してはいけないのか
大腸カメラを受けることのメリット
大腸カメラによる精密検査を行うことで、次のようなメリットがあります。-
ポリープやがんの場所・大きさ・形状を直接確認できる
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病変があれば同時に切除・生検が可能
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早期発見は治療・予後を大きく改善する
大腸ポリープを切除することで将来的な大腸がんのリスクを抑えることができ、早期の大腸がんであれば内視鏡治療のみで完治を目指せるケースも十分にあります。便潜血検査で異常を指摘された場合にはそのまま放置せず、必ず精密検査を受けることが大切です。

まとめ:「確かな安心」を手に入れるために
せっかく苦労して便を採取し、きちんと検査を受けたのです。異常が出たのであれば、その結果を大切にし、ぜひ精密検査まで受けていただきたいと思います。大腸内視鏡検査を受けることで、不安を「確かな安心」に変えることができます。
「痔のせいだから大丈夫」と自分を納得させて放置することは、病気の早期発見のチャンスを自ら捨ててしまうことになりかねません。大腸がんは、ポリープの段階や早期がんのうちに見つかれば、内視鏡治療だけで完治を目指せる病気です。
武蔵浦和にあるジェイズ胃腸内視鏡・肛門クリニックでは、大腸肛門病専門医であり消化器内視鏡専門医でもある院長をはじめ、胃腸・大腸肛門を専門とする医師が診療にあたっています。皆様の不安を「安心」に変えるお手伝いをいたします。検査への不安やお尻の悩みなど、どんな小さなことでも構いません。まずは一度、当院へご相談ください。
ジェイズ胃腸内視鏡・肛門クリニック
理事長 柴田 淳一
東京大学大学院修了 医学博士
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医
日本大腸肛門病学会専門医・指導医
日本消化器病学会専門医
日本消化器外科学会専門医
消化器がん外科治療認定医
浦和医師会胃がん検診読影委員 など