潰瘍性大腸炎のバイオマーカー検査
便中カルプロテクチン・血清LRG

― 血液・便で炎症の状態を評価する新しい指標 ―

炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)は、大腸や小腸などの消化管に慢性的な炎症を起こす疾患の総称です。
潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis:UC)
クローン病(Crohnʼs Disease:CD)
の2つを指すことが一般的です。
いずれも、腹痛、下痢、血便、体重減少などの症状を呈し、再燃と寛解を繰り返すことが特徴です。炎症の範囲や重症度、経過には個人差が大きく、症状だけでは病状を正確に把握できない場合も少なくありません。
IBDの診断や病状評価において、内視鏡検査(大腸カメラ・小腸内視鏡など)は最も重要な検査です。一方で、頻回に行うことは身体的・精神的な負担となるため、すべての経過観察を内視鏡のみで行うことは現実的ではありません。
そこで近年注目されているのが、バイオマーカー検査です。血液や便を用いて、腸管の炎症状態を客観的に評価することで、内視鏡検査を補完し、より安全で継続的な病状管理が可能になります。
バイオマーカー検査の役割

バイオマーカー検査は次のような目的に活用されています
- 現在の炎症の活動性の把握
- 治療効果の判定
- 再燃の早期発見
- 内視鏡検査が必要かどうかの判断補助
バイオマーカーとは、「体の中で起きている変化を数値として捉える指標」のことです。潰瘍性大腸炎やクローン病では、腸管の炎症の強さや活動性を反映する物質が血液や便に現れます。
症状(下痢・血便・腹痛など)は主観的な要素も大きく、必ずしも腸の炎症の程度と一致しないことがあります。
症状+バイオマーカー+内視鏡検査を組み合わせて評価することで、一人ひとりに応じた病気の治療を適切に行うことができるのです。
便でわかる腸管炎症の指標


便中カルプロテクチン検査
カルプロテクチンは、腸管に炎症が起こった際に集まる白血球(好中球)から放出されるタンパク質です。
便中の数値を測定することで、腸粘膜の炎症状態をダイレクトに反映できるのが特徴です。その有用性が認められ、2017年に潰瘍性大腸炎、2022年にはクローン病の診療において保険適用が拡大されました。
「自覚症状と実際に腸で起きている炎症の強さ」は必ずしも一致しません。たとえ症状が落ち着いていても、カルプロテクチンの値が高い場合は、目に見えないところで炎症が残っている可能性があり、再燃を未然に防ぐための重要なサインとなります。
便中カルプロテクチン検査では、次のようなことがわかります。
現在の炎症の有無
血液検査では捉えきれない微細な腸の炎症を鋭敏に数値化し、現在の病状を客観的に把握できます
寛解(落ち着いた状態)の維持
自覚症状が出る前に数値で再燃の兆候をいち早く察知し、良い状態が継続できているかを正確に判断します
内視鏡検査の必要性
数値が高値の場合には、内視鏡検査(大腸カメラ)を行い炎症の程度を直接確認し、治療の強化・変更を適切なタイミングで検討します
検査のメリットとしては、何よりも身体に負担をかけない「非侵襲的」なものである点が挙げられます。便を採取するだけで済むため、痛みを感じることなく繰り返し実施でき、数値が安定している期間であれば、結果として内視鏡検査の頻度を抑えることにもつながります。
ただし、いくつか注意すべき点もあります。検査には採便が必要であることに加え、数値は感染性腸炎やNSAIDs(一般的な痛み止め)の使用といった他の要因でも上昇することがあります。
そのため、数値のみで一喜一憂するのではなく、他の検査結果や症状と照らし合わせ、医師が総合的に判断することが必要です。
血液でわかる炎症の指標


LRG(ロイシンリッチα2グリコプロテイン)
LRGは炎症が起こった際に産生されるタンパク質で、近年、潰瘍性大腸炎やクローン病の活動性を反映する新しい血液バイオマーカーとして注目されています。
従来よく使われてきたCRP(C反応性蛋白)は、全身の炎症を反映する指標であり、炎症があってもCRPが上昇しない患者さんが一定数存在します。
これに対し、LRGは腸管局所の炎症とより強く関連していることが報告されています。
また、LRGは内視鏡検査の結果とも比較的高い相関を示すことがわかっており、身体への負担を抑えながら腸の状態を推測できる有用な指標として、2020年より保険適用が認められています。
採血のみで実施できるため患者さんの負担が少なく、主に以下のことを把握するために用いられます。
炎症の活動性と治療効果
腸管内の炎症がどの程度活発か、また現在の治療によって炎症が順調に改善しているかを客観的な数値で把握できます
自覚症状と乖離した炎症
腹痛や下痢などの症状が軽くても、腸の奥に炎症が残っていないかを確認でき、再燃の兆候を早期に捉えることが可能です
便検査の補完や代替
下痢などの症状により採便が困難で、便カルプロテクチン検査の実施が難しい状況であっても、血液検査のみで安定して精度の高い評価が行えます
血清LRG検査の大きなメリットは、採血のみで実施できる点です。内視鏡検査のような身体的・精神的な負担が少なく、便を採取して医療機関へ提出する手間がありません。定期的な通院の際に繰り返し行えるため、時系列で病状の推移を追うことが可能です。
ただし、いくつか注意すべき点もあります。LRGは腸管の炎症と関連が強いものの、関節リウマチなどの他の自己免疫疾患や、細菌感染症などが合併している場合にも数値が上昇することがあります。
そのため、数値のみで判断するのではなく、内視鏡検査の結果や自覚症状などと照らし合わせながら、医師が総合的に病状を評価することが必要になります。

潰瘍性大腸炎に関する検査や治療などお気軽に当院までご相談ください
ジェイズ胃腸内視鏡・肛門クリニックでは年間200名以上の潰瘍性大腸炎の診療を行っております。バイオマーカー検査を含む、専門的な検査や治療をご希望の方は当院にご相談ください。なお、他院で治療中の方は、紹介状の持参をお願いいたします。紹介状がない場合、十分な情報が得られず、詳しい説明が難しくなることがありますのでご了承ください。また、SKY CLINIC(広島)にて漢方治療を受けているかたで、定期的な検査(便中カルプロテクチン検査、採血検査<LRG、BNP>、便潜血検査、大腸内視鏡検査など)をご希望のかたにも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
バイオマーカー検査に関するQ&A

病気が落ち着いているのか不安ですが、毎月検査をすることはできますか?
バイオマーカー検査(便カルプロテクチン、LRG)には「3ヶ月に1回」という保険適応のルールがあるため、毎月検査を行うことは原則として難しいのが現状です。 基本的には数ヶ月おきに検査を行い、数値の推移を確認していきます。毎月の検査でなくても、日々の体調変化(便回数の変化、便の粘液付着など)を注意してみていくことで、病状の把握は十分に可能です。気になる症状がある場合には、内視鏡検査を組み合わせることもできますので、いつでもご相談ください。
便検査と血液検査(LRG)では、どちらが良いですか?
当院では、より早期に炎症をキャッチできる便検査を推奨しています。便検査は、炎症が強くなって症状が出る前の「ごく初期の段階」で数値に変化が現れやすいため、再燃の兆候をいち早く見つけるのに適しています。一方で、後日検体を持参するのが難しい方や、状態が悪くて便を採取するのが困難な方などには血液検査(LRG)を行っています。患者さんのライフスタイルや体調に合わせて使い分けが可能ですので、外来でご相談ください。
バイオマーカー検査を受けるメリットは何ですか?
最大のメリットは、「自覚症状が出る前に、腸の炎症状態を客観的に把握できること」です。潰瘍性大腸炎では、自覚症状がなくても腸の中にわずかな炎症が残っていることがあります。バイオマーカーを定期的に確認することで、大きな炎症につながる前に内視鏡検査での精査により炎症の範囲や程度を確認しつつ、治療薬の変更・強化を行うことができます。